☆ すべての伝説が物語っているのは、空海は日本において誕生した唯一無比の尊いブッダであるという、歴然とした事実である。
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最澄が終生、奈良仏教と対立したのに対して、空海は奈良仏教を包含してしまった。さらに違うところは、最澄の天台宗から優秀な後継者が続出し、鎌倉仏教の祖師を輩出したのに対し、真言宗は、ついぞ空海を越える人が出なかった。
最澄の後継者たちは、最澄の未完を補填すべく、意を尽くした。
それが噴出したのが叡山発祥の鎌倉仏教である。鎌倉仏教の祖師がたは、いい意味で一途だが、選別的・排他的で、非寛容だった。包括的であろうとした人はいなかった。その点で、きわめて最澄的だったといえば、言葉がすぎるだろうか。
空海の偉業は密教を大陸から請来したことではなく、三国伝来の密教を日本において完成させたことである。全仏教、のみならず人間精神の向上の全階梯を包摂する密教の体系化を成し遂げたのは、インド・中国・日本を通じて、空海以外にいない。それを凌駕しうるだれがいたであろう。これぞ無類の誇りとして、確認しておく必要がある。
(『智青』密教の遊歩道56 所収)